「技術・人文知識・国際業務」で任せられる仕事の境界線と不法就労リスク
「技術・人文知識・国際業務(以下、「技・人・国」と記します。)」の在留資格で外国人を採用する際、人事担当者が最も頭を悩ませるのが「この業務内容で本当に許可されるのか?」という点です。採用後に「実はビザの範囲外の仕事だった」と判明した場合、次回の更新が不許可になるだけでなく、企業側も不法就労助長罪に問われる深刻なリスクがあります。
この記事では、実務上迷いやすい「業務の境界線」と、入管がどこを見ているのかについて詳しく解説します。
1.「技・人・国」審査の根幹:単純労働の禁止と関連性
入管が職務内容を審査する際、重視するのは「職種名」ではなく「実態」です。以下の2つの大原則が守られている必要があります。
(1)業務の専門性(高度な知識の必要性)
「技・人・国」は、大学等で習得した学術的な知識を必要とする業務のためのビザです。そのため、特別な訓練を必要としない「単純労働」は一切認められません。
- NG例:飲食店のホール接客のみ、工場のライン作業、建設現場の作業員、ホテルのベッドメイキングのみ。
(2)専攻内容と職務内容の「関連性」
本人が大学や専門学校で学んだ専攻分野と、会社での業務が論理的に結びついている必要があります。大学卒の場合は比較的広く認められますが、専門学校卒の場合は「学んだことと直結する仕事」でなければ許可は極めて困難です。
「人手不足だからとりあえず現場へ」という配置は、外国人本人を不法就労者にしてしまうだけでなく、企業にとっても大きなペナルティを背負う危険を伴う行為です。
2.実務でよくある「境界線」の判断事例
(1)「現場研修」としての店舗・工場勤務
将来の幹部候補として、入社直後に数ヶ月の現場実習を行うことは一般的です。入管法上も「実務研修」として認められることがありますが、以下の条件が厳格に課されます。
- 研修計画の明文化:研修の目的、期間、場所、指導員が記された計画書があること。
- 期間の妥当性:通常、数ヶ月から長くとも1年程度。雇用期間の大半が現場作業である場合は「単純労働」とみなされます。
- 本人のキャリアプランとの整合性:将来的にオフィスでの管理業務や海外展開業務に就くことが前提であること。
(2)ITエンジニアと「保守・キッティング」
エンジニアとして採用しても、実際にはPCのセットアップ(キッティング)や配線作業ばかりをさせている場合、それは「技術」ではなく「現業(作業員)」とみなされる可能性があります。
(3)「翻訳・通訳」など、複数の言語を使う職種
「外国人だから翻訳・通訳で」と申請するケースは多いですが、審査では「その会社にフルタイムの翻訳業務が本当にあるのか?」が確認されます。さらに入管は、主に言語能力を用いて対人業務等に従事する外国人が業務上使用する言語について一定程度(CEFR B2に相当するレベル)の力の証明を求めています。例えば、外国人が母国語と日本語を使う翻訳・通訳業務に従事するのであれば、日本語の能力について、以下のような証明が必要となります。
✔︎JLPT・N2以上を取得していること
✔︎BJTビジネス日本語能力テストにおいて400点以上を取得していること
✔︎中長期在留者として20年以上日本に在留していること
✔︎日本の大学卒業、又は日本の高等専門学・専修学校の専門課程・専攻科を修了していること
✔︎日本の義務教育を修了し高等学校を卒業していること
- 業務量に関する不許可リスク:海外取引がほとんどない会社や、翻訳のボリュームが少なく、実際には梱包や配送作業がメインになっている場合。
- 言語能力に関する不許可リスク:従事する業務で使用する言語能力を証明する書類(合格証、証明書など)が提出できない場合。
- 業務内容に関する不許可リスク:担当業務が「翻訳・通訳」となっていなくても、対人業務において2ヶ国語以上の言語を用いることが想定される(ホテルのフロント業務など)が、使用する言語の能力を証明する書類が提出できない場合。
3.雇用主が負う「不法就労助長罪」のリスク
「ビザの範囲外だと知らなかった」という言い訳は、入管法では通用しません。不法就労をさせてしまった企業には以下のペナルティが科されます。
- 重い罰則:3年以下の懲役または300万円以下の罰金(もしくはその併科)。
- 採用停止状態:今後数年間、他の外国人のビザ申請が事実上不許可となる「ブラックリスト」状態。
- 学校法人等への影響:留学生を送り出す学校側からも「不適切な雇用先」とみなされ、今後の採用活動に支障が出る。
4.採用担当者が行うべき「防衛策」チェックリスト
リスクを未然に防ぐために、契約締結前に以下の項目を確認してください。
- 内定者の「成績証明書」などを取り寄せ、履修科目(専攻)と業務が合致しているか確認したか?
- 雇用契約書などの書面に、専門的な職務内容が詳細に(具体的に)記載されているか?
- 言語能力を用いた対人業務に従事する場合、言語能力を証明する書面を添付しているか?
- 「現場研修」がある場合、いつまでに終了し、どの部署へ異動するか明記しているか?
- 給与が「日本人と同等以上(目安:月額20万円以上)」であるか?
「この職務内容で本当に許可が出るのか?」「理由書でどう説明すべきか?」と少しでも不安を感じたら、お気軽にご相談ください。貴社のビジネス実態に合わせた最適な申請戦略をアドバイスします。